兎の戦力はあの長い耳か、それとも速い足か?

2016.12.24

[本だな、読んだな] 

「情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記」堀栄三著 (文春文庫)515g4l7qyjl

 

 Kindleでなにげに買った本が、強烈な印象を残しました。

 

 戦時中は日本軍で、戦後は自衛隊において情報参謀として活躍した著者が、体験して会得してきた「情報」とは何か、私たちはどう接するべきなのか、生々しく書かれています。

 

 堀さんがドイツ駐在の時に読んだ本に「兎の戦力は、あの速い脚であるのか、 あの大きな耳であるのか?」という設問がありました。

 

  
 答えは「兎の耳」。

 

  
 兎は速い脚を持っていても、長い耳ですばやく正確に敵を察知できなかったら、走る前にやられてしまうから。

 兎の耳は即ち、情報収集能力と判断力と言えます。
 そして兎の速い足は作戦遂行力です。

  
 日本軍は、兎の足は大切にしてきたけれど、兎の耳は軽視してきたと、堀さんは言います。

 

 堀さんが著者の中で、アメリカが戦後に、日本陸海軍の情報部の不十分さについて次の5点にとりまとめた調査書を見て、あまりの的確さに愕然とした、と書いています。

 その5つとは、
 ①同盟国のドイツが勝つと断定して、米英等連側の戦力・資源を過小評価した
 ②戦場(ここでは太平洋)を俯瞰してみる視点が欠けて近視眼的になり、そのための戦略立案ができず、敵に追い込まれ、益々航空偵察ができなくなり、確度の高い情報を逃した。
 ③情報関係のポストに人材を充てなかった
 ④陸海軍間の円滑な連絡が欠けて、せっかくの情報を役立てられなかった
 ⑤「精神主義」が冷静な判断を妨げ、必要な情報に対して盲目的になってしまった

 

 この5つを見ていると、今でも、企業・事業やプロジェクトの失敗の要素・要因に多く当てはまるような気がします。

 情報の軽視です。

 外部の意見を聞いて「撤退が良い」と言われたのに、それを無視して、結果として損害を広げたとか、有力なサポートがあると信じ込み事業に突進したなど、情報を軽視し、判断を誤った例を見受けます。

 

 もちろん兎の足も大切なのですが、「兎の耳」はすぐには成果が出ない分、わかりにくいことがあります。

 現在は情報があふれているように見えても、本当に必要な情報を探し出すには、時間や手間を掛けなけばならないことには代わりありません。

 「兎の耳」の在り方を考えていきたいですね。

 

(出典)「情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記」堀栄三著 (文春文庫)