2025.01.04
[本だな、読んだな]
土曜日は最近読んだ本のご紹介です。
『最後通牒ゲームの謎
—進化心理学からみた行動ゲーム理論入門』
小林佳世子著 日本評論社(2021年)
ゲーム理論について調べ物をしているときに
出会った本です。
最後通牒(つうちょう)ゲームは、
経済学の一分野であるゲーム理論から生まれた
モデルの一つです。
あなたは千円をもらった。
ただしこの千円のうちいくらかを見知らぬ私に分ける必要がある。
私には分け前にイエスかノーを言える権利がある。
イエスならば提案どおりの割合で千円を2人で分け、
ノーならば千円は没収されて2人は何も得られない、というものです。
従来の経済学では
自分の利益を最大化することを考えるのが
人間であるという前提になっています。
(ホモ・エコノミクス・経済人/通称エコン)
あなたと私が二人とも、
自分の利益を最大化しようとするエコンだったら、
あなたは999円取って、私に1円を提示し
それでも、私はゼロになるより1円が良いので
それでOKを出すというのが
通常の経済学の考え方でした。
でも、実際にゲームをしてみると
分ける側は平均420円を相手に提案し、
また受け取る側も分け前が30%以下になると
自分が損をしてでもしばしばノーと言うそうです。
なぜ、人間は自分が損することを厭わないのか。
そこにあるのは「人間の利他性」でした。
著者はそのような理屈では説明できない
利他性が、人間を進化させてきたと説明しています。
利他性があるから「協力」もできる。
だからこそ、人類が成功してきたのだと言います。
経済学から進化学まで
幅広い分野を網羅して
人の行動の意味を解き明かしていく
大変知的刺激に満ちた本でした。
人を大切にする経営では
「利他の心」ということが基本にあります。
実際にはエコンが成立しないこと、
従来型の資本主義のほころびが見えていて
人を大切にする経営のように
ステークホルダーを重視した経営が
脚光を浴びてきていることは、
言い過ぎかもしれませんが
人間本来の利他性というものに
向き合う時代が来ているからではないでしょうか。
まだ理解しきれていない部分もあり
機会をみて、再度読みたい本です。
▶アイパス経営コンサルティング株式会社
代表取締役・中小企業診断士 有村知里