2025.06.14
[コンサルの視点から]
ある商店街に、昔ながらの惣菜店があります。
60~70代のご夫婦で切り盛りするそのお店は、
コロッケやハムカツ、ポテトサラダ、自家製ぬか漬けなど、
どこか懐かしくてホッとするお惣菜が20種類ほど、
ショーケースに並んでいます。
レジはなく、そろばんで買い上げ金額を弾くスタイル。
もちろん支払いは現金のみ。
デジタル化が進む中で、まるで時間が止まっているかのような店構えです。
ですが、平日の午前中から行列ができ、ひっきりなしにお客さんが訪れます。
ショーケースに商品が少なくなると、
奥で調理をしていたご主人が、揚げたてのコロッケを追加してくれます。
常連のお客さんには「いつもありがとうございます」と声をかける姿からは、
一人ひとりの顔を覚えている様子がうかがえます。
この店にはホームページもSNSもありません。
でも、地域の人にとっては「なくてはならない存在」です。
この光景を見ると、「マーケティングとは何だろう」と考えさせられます。
「販売促進」というような言葉や雰囲気は全くありません。
でも、確実にお客が集まり、店の信頼と絆が根付いている。
この店の日々の営みそのものがマーケティング活動なのです。
美味しい惣菜を丁寧に作り、地域の食卓を支えるという信念。
その軸がこのお店の「あり方」であり、
すべてのマーケティングの起点なのだと気づかされます。
データや手法に頼る前に、まず「どうありたいのか」という姿勢。
その明確さが、共感と信頼を積み重ねていっているような気がします。
小さな商いの中に、マーケティングの本質が体現されているのではないでしょうか。
▶アイパス経営コンサルティング株式会社
代表取締役・中小企業診断士 有村知里