小さな会社ほど、人材育成は日常の中にある― 5人・10人・20人で変わる、人が育つ会社のつくり方 ―

2026.05.13

[小さくても強くてやさしい会社づくり] 

アイパス経営シリーズ 人材育成編第1回「小さな会社ほど、人材育成は日常の中にある」のアイキャッチ画像

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回から、「小さな会社の、人が育つ習慣」というテーマで、

人材育成について、何回かに分けて考えていきます。

 

「社員がなかなか育たない」
「何度伝えても、なかなか行動が変わらない」
「若手が定着しない」

 

中小企業の経営者の方とお話ししていると、
こうした悩みを伺うことがあります。

 

人材育成というと、
研修制度や評価制度、教育カリキュラムのようなものを
思い浮かべるかもしれません。

 

もちろん、それらも大切です。

 

けれども、すべての会社が、
最初から大きな教育制度を整えられるわけではありません。

 

特に、5人以下、10人前後、20人前後の会社では、
人材育成は制度というより、
日々の仕事の中にあります。

 

社長の言葉。
仕事の任せ方。
確認の仕方。
相談しやすい空気。
失敗したときの受け止め方。

 

そうした一つひとつが、
社員が育つ土台になっているのだと思います。

 

小さな会社にあった形で考える

人材育成を考えるとき、
つい、ある程度の規模がある会社を想像してしまうことがあります。

 

人事部がある会社。
研修制度がある会社。
管理職研修や評価制度が整っている会社。

 

けれども、日本の会社の多くは、
もっと小さな規模で事業を営んでいます。

 

中小企業庁の資料では、
小規模事業者は日本の事業者数の大きな割合を占めています。   
また、小規模企業の定義も、商業・サービス業では従業員5人以下、
製造業その他では20人以下とされています。

 

つまり、5人以下、10人前後、20人前後の会社は、
決して特別に小さい存在ではありません。

 

むしろ、日本の中小企業を考えるうえでは、
とても大切な規模なのです。

 

だからこそ、人材育成も、
大きな会社の制度をそのまま当てはめるのではなく、
小さな会社の現実に合った形で考える必要があります。

 

社員数が変わると、育成の課題も変わる

人が育つ会社には、共通点があります。

 

けれども、5人の会社と50人の会社では、
育成の課題は同じではありません。

 

社員数が増えるほど、
社長が直接教える段階から、
リーダーを通じて育てる段階へ。
さらに、仕組みや文化で育てる段階へと変わっていきます。

 

その違いは、次のように整理できます。

 

社員数

育成の状態

起きやすい課題

最初に整えること

1〜5人

社長が直接見て、直接教える

社長の考えが暗黙知になりやすい

仕事の基準を言葉にする

6〜10人

社長が全員を見ているが、

少し限界が出る

確認や判断が社長に集中する

役割と報告の流れを整える

11〜20人

担当や現場ごとの差が出る

教え方にばらつきが出る

OJTや仕事の手順を見える化する

21〜30人

リーダーを通じた育成が必要になる

育成が人任せになりやすい

面談・振り返り・任せ方を整える

31〜50人

管理職やリーダー層の力が問われる

管理職の育成力に差が出る

リーダー育成と評価の基準を整える

 

この表を見ると、
人材育成の課題は、単に「社員が育つかどうか」ではなく、
会社の人数によって変わっていくことがわかります。

 

5人の会社では、
社長の言葉や行動が、そのまま教育になります。

 

10人前後になると、
社長一人で全員を細かく見ることが少しずつ難しくなります。

 

20人前後になると、
現場や担当ごとに、仕事の進め方や教え方の違いが出てきます。

 

30人、50人に近づくと、
社員を直接育てるだけではなく、
人を育てるリーダーを育てることが課題になります。

 

つまり、会社の人数が増えるほど、
育成は「社長個人の力」から、
「組織としての力」へ移していく必要があるのです。

 

5人の会社では、社長の言葉が育成になる

5人以下の会社では、
社長と社員の距離が近いことが多いです。

 

日々の仕事ぶりも見えやすく、
ちょっとした声かけや確認もしやすい。
社員も、社長の考え方や判断の仕方を
身近に感じながら働いています。

 

この段階では、
大きな教育制度をつくることよりも、
社長が大切にしている仕事の基準を
少しずつ言葉にしていくことが大切です。

 

たとえば、

「うちの会社では、何を大切にしてお客様に接するのか」
「仕事が丁寧とは、具体的にどういう状態なのか」
「困ったときは、どの段階で相談してほしいのか」
「ミスが起きたとき、何を確認するのか」

 

こうしたことを、
日々の会話の中で伝えていく。

 

それだけでも、社員にとっては大切な学びになります。

 

小さな会社では、
社長の言葉が安定していることが、
人が育つ土台になります。

 

昨日と言っていることが違う。
人によって判断が変わる。
忙しいときだけ基準が変わる。

 

そうなると、社員は迷います。

 

反対に、社長の言葉に一貫性があると、
社員は少しずつ判断の基準を身につけていきます。

 

5人の会社の人材育成は、
まず「社長の考えを言葉にすること」から始まるのだと思います。

 

10人の会社では、社長だけでは育てきれなくなる

社員が10人前後になると、
社長はまだ全員の顔を見ています。

 

けれども、少しずつ、
すべてを直接確認することが難しくなっていきます。

 

現場で起きていること。
お客様とのやり取り。
新人がどこでつまずいているのか。
誰が誰に何を教えているのか。

 

社長が見えているつもりでも、
実際には見えにくい部分が増えていきます。

 

この段階で起きやすいのが、
確認や判断が社長に集中することです。

 

社員が自分で判断できない。
小さなことも社長に確認する。
できる社員に仕事が集まる。
新人教育が、その場その場の対応になる。

 

こうした状態が続くと、
社長も社員も疲れてしまいます。

 

だからこそ、10人前後の会社では、
「誰が何を見ているのか」
「どの情報を共有するのか」
「どの段階で相談するのか」
を整えることが大切になります。

 

たとえば、週に一度、
短い振り返りの時間をつくる。

 

日報や週報で、
できたこと、困ったこと、次に取り組むことを共有する。

 

新人に教える内容を、
簡単なチェックリストにしておく。

 

小さな工夫でよいのです。

 

10人の会社の人材育成は、
社長が一人で抱えるのではなく、
少しずつ「共有する仕組み」を持つことから始まります。

 

20人の会社では、教え方のばらつきが出てくる

社員が20人前後になると、
担当や現場ごとの差が見えやすくなります。

 

ある人は丁寧に教えている。
別の人は、見て覚えてほしいと思っている。
ある部署では情報共有ができている。
別の部署では、仕事が属人化している。

 

このように、
同じ会社の中でも、教え方や仕事の進め方に
ばらつきが出てきます。

 

もちろん、人によって得意不得意はあります。
教え方が完全に同じである必要はありません。

 

けれども、最低限の基準がないと、
社員は迷います。

 

新人は、誰のやり方を見ればよいのかわからない。
教える側も、何をどこまで教えればよいのかわからない。
仕事ができる人ほど、自分の感覚で進めてしまう。

 

その結果、
「人はいるのに、なかなか育たない」
という状態が生まれます。

 

20人前後の会社では、
OJTを見える化することが大切です。

 

難しい制度でなくても構いません。

 

仕事の手順を簡単に書き出す。
新人が最初に覚えることを整理する。
教える人と確認する人を決める。
月に一度、育成の進み具合を振り返る。

 

こうしたことを少しずつ整えるだけでも、
育成は人任せではなくなっていきます。

 

20人の会社の人材育成は、
「教える人の善意」に頼りすぎず、
仕事の基準や教える内容を見えるようにすることが大切です。

 

人を大切にする経営は、人が育つ環境を整えること

人を大切にする経営とは、
社員にやさしく接することだけではありません。

 

社員が安心して学べること。
困ったときに相談できること。
失敗したときに、責められるだけで終わらないこと。
少しずつ役割を広げていけること。

 

そうした環境を整えることも、
人を大切にする経営への一つの方法です。

 

人が育つ会社は、
特別な研修制度を持っている会社とは限りません。

 

むしろ、5人以下の小さな会社のうちから、
社長の言葉、仕事の基準、相談しやすい空気を
少しずつ整えている会社なのだと思います。

 

社員数が増えれば、
育成の課題も変わります。

 

だからこそ、
今の人数に合った育て方を考えることが大切です。

 

5人の会社には、5人の会社の育て方があります。
10人の会社には、10人の会社の育て方があります。
20人の会社には、20人の会社の育て方があります。

 

大きな制度を整える前に、
まずは日々の共有、声かけ、振り返りから始める。

 

小さくても強くてやさしい会社は、
人が育つ土台を、日常の中で少しずつ整えている会社です。

 

おわりに

今回は、社員数によって育成課題が変わることを見てきました。

 

次回以降は、「小さな会社の、人が育つ習慣」として、
共有の仕方、質問しやすい空気、任せ方、

失敗の扱い方、週報や振り返りの活かし方などを、

少しずつ考えていきたいと思います。

 

大きな制度を整える前に、日々の仕事の中でできることがあります。
小さな会社だからこそできる、人が育つ習慣を、一つずつ見ていきます。

 

〈参考資料〉

本記事では、以下の資料を参考にしました。

中小企業庁「中小企業実態基本調査
中小企業庁「中小企業白書小規模企業白書
厚生労働省「能力開発基本調査

 

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執筆者

アイパス経営コンサルティング株式会社
代表取締役・中小企業診断士
有村 知里
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