2026.05.20
[小さくても強くてやさしい会社づくり]

前回から、「小さな会社の、人が育つ習慣」というテーマで、
人材育成について考えています。
第1回では、社員数が変わると、
育成の課題も変わることを見てきました。
今回は、その出発点ともいえる、
5人ほどの会社での人材育成について考えてみたいと思います。
5人の会社は、社長との距離が近い
5人ほどの会社では、社長と社員の距離が近いことが
大きな特徴です。
毎日の仕事ぶりが見える。
ちょっとした会話ができる。
困ったときに、すぐ声をかけられる。
この距離の近さは、小さな会社の大きな強みです。
たとえ、研修制度がなくても、
日々の仕事の中で、社長の考え方や判断の仕方が社員に伝わります。
つまり、5人の会社では、
社長の言葉や行動そのものが、社員教育になるのです。
ただし、これは良い面だけではありません。
社長の考えが伝わりやすいということは、
社長の言葉がぶれると、社員も迷いやすいということです。
昨日はこう言われたのに、今日は違うことを言われた。
人によって判断が違う。
忙しいときだけ基準が変わる。
もしも、こうしたことが続くと、
社員は「何を基準に動けばよいのか」がわからなくなります。
小さな会社ほど、社長の言葉の影響は大きいのです。
仕事の基準は、「見て覚えて」だけでは伝わりにくい
社長の頭の中には、仕事の基準がたくさんあります。
たとえば、
「お客様への対応は、ここまで丁寧にしたい」
「この仕事では、早さより確認を優先したい」
「この場面では、必ず事前に相談してほしい」
「この程度の判断なら、自分で進めてよい」
こうした基準は、社長にとっては当たり前かもしれません。
けれども、社員にとっては、必ずしも当たり前ではありません。
人数が少なく、社長も忙しい。
まとまった教育時間を取ることも難しい。
ですから、どうしても「見て覚える」育成になりやすいものです。
社員も、現場の中で少しずつ覚えていきます。
これは自然なことです。
けれども、「見て覚えて」だけに頼りすぎると、
育つ人と育ちにくい人の差が大きくなります。
勘のよい人は、社長の意図をくみ取れるかもしれません。
経験のある人は、少し見れば流れをつかめるかもしれません。
でも、すべての人がそうではありません。
なぜその対応をしたのか。
なぜその順番で進めるのか。
なぜそこを確認するのか。
この「なぜ」が伝わらないと、
社員は表面的な動きだけをまねることになります。
だからこそ、5人の会社では、
仕事のやり方だけでなく、
判断の理由まで言葉にして伝えることが大切なのです。
5人の会社で整えたい小さな習慣
社長が直接指導できる規模であれば
最初から大きな教育制度を整える必要はありません。
まずは、日々の中でできる小さな習慣からで十分です。
1. 仕事の基準を短い言葉にする
社長が大切にしている仕事の基準を、
短い言葉にしておくことです。
「早さより正確さを大事にする仕事」
「お客様が不安にならない返事をする」
「迷ったら、事前に相談する」
長い文章でなくても構いません。
日々使える短い言葉の方が、社員の中に残りやすくなります。
2. よかった行動を、その場で伝える
人材育成というと、できていないことを注意する場面を想像しがちです。
でも、人が育つ会社では、よかった行動も言葉にしています。
「今の確認はよかったです」
「その声かけは、お客様が安心できると思います」
「早めに相談してくれたので、対応しやすくなりました」
何がよかったのかを伝えることで、社員は「これを続ければよいのだ」とわかります。
3. 相談してよいタイミングを明確にする
社員が相談しないのは、
やる気がないからとは限りません。
「こんなことで相談してよいのだろうか」
「忙しそうだから声をかけにくい」
「どの段階で聞けばよいかわからない」
そう感じていることもあります。
だからこそ、相談してほしいタイミングを
具体的に伝えておくことが大切です。
「金額が変わるときは相談してください」
「納期が遅れそうなときは、わかった時点で教えてください」
「お客様の反応に違和感があったら、すぐ共有してください」
相談の基準が見えると、社員は動きやすくなります。
人が育つ土台は、5人の会社からつくれる
5人の会社では、きちんとした制度を整えることは
難しいかもしれません。
しかし、人が育つ土台は、
5人の会社のうちからつくることができます。
社長の考えを言葉にする。
仕事の基準を共有する。
よかった行動を伝える。
相談してよいタイミングを明確にする。
これらは、大きな費用をかけなくても始められることです。
しかも、こうした小さな習慣は、
会社が10人、20人と大きくなったときにも、育成の土台になります。
人を大切にする経営とは、
社員にやさしく接することだけではありません。
社員が安心して学び、相談し、
少しずつ自分で判断できるようになる環境を整えることでもあります。
5人の会社では、社長の言葉が育成の土台になります。
日々の仕事の中で、何を伝え、何を共有し、どのように見守るのか。
そこから、人が育つ会社づくりは始まっていくのだと思います。
次回について
次回は、社員が10人前後になったときの人材育成について考えていきます。
10人前後になると、
社長はまだ全員を見ているつもりでも、
少しずつ見えにくい部分が増えていきます。
確認や判断が社長に集中しやすくなるこの段階で、
どのように役割や共有の流れを整えていけばよいのか。
引き続き、「小さな会社の、人が育つ習慣」として考えていきます。
※本記事では、厚生労働省「能力開発基本調査」、
中小企業庁の小規模事業者・人材マネジメント関連資料を参考にしながら、
筆者の中小企業支援の現場感覚を踏まえて整理しています。
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執筆者
アイパス経営コンサルティング株式会社
代表取締役・中小企業診断士
有村 知里
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