2026.07.01
[小さくても強くてやさしい会社づくり]
これまで、「小さな会社の、人が育つ習慣」として、
5人、10人、20人、30人前後の会社について考えてきました。
5人の会社では、社長の言葉が仕事の基準になる。
10人前後では、小さなリーダーの芽を育てる。
20人前後では、教え方や仕事の基準を見える化する。
30人前後では、現場を任された人が、少しずつリーダーになっていく。
では、50人前後の会社では、
人材育成の課題はどのように変わっていくのでしょうか。
この段階で大切になるのは、部署を越えて話す場を持つことです。
50人前後になると、会社は一つの大きなチームというより、
いくつかの部署や役割の集まりになっていきます。
営業は営業の事情がある。
製造や現場には現場の事情がある。
管理部門には管理部門の視点がある。
それぞれが一生懸命に仕事をしていても、
自分の部署を見ているだけでは
会社全体としてはうまくつながらないことがあります。
経営者からは、社員に対して
「全体最適を考えてほしい」という声を聞くことがよくあります。
それは、リーダーや管理職に、自分の部署だけでなく、
会社全体を見て考えてほしいという願いでもあります。
50人前後になると、部署ごとの壁が見え始める
社員が50人前後になると、
社長が一人ひとりの仕事ぶりを直接見ることは、かなり難しくなります。
現場で何が起きているのか。
若手がどこで困っているのか。
部署間でどのような行き違いが起きているのか。
お客様への対応に、どのような影響が出ているのか。
社長がすべてを把握し、
直接声をかけることには限界が出てきます。
一方で、各部署のリーダーや管理職は、
自分の部署のことで手いっぱいになりやすいものです。
営業部門は売上や顧客対応を考えること。
製造や現場部門は品質や納期を考えること。
管理部門は手続きや仕組み、数字の正確さを考えること。
どれも会社にとって大切な役割です。
けれども、それぞれの部署が自分たちの事情だけで動いてしまうと、
会社全体としてはかみ合わなくなることがあります。
たとえば、営業が受けた約束が現場に十分伝わっていない。
現場の事情が営業に共有されていない。
管理部門が必要としている情報が、各部署から集まらない。
部署ごとの判断は間違っていなくても、全体としては無理が生じている。
こうしたことが起きやすくなるのも、
50人前後の会社の特徴だと思います。
この段階では、リーダーや管理職が、
自分の部署だけでなく、会社全体のつながりを見ていくことが必要になります。
部署を越えて話す場が、全体を見る力を育てる
全体最適は、頭の中で考えるだけではなかなか身につきません。
他部署の話を聞く。
自分の部署の状況を伝える。
会社全体の目標や課題を共有する。
自分たちの判断が、他部署にどう影響しているのかを知る。
そうした経験を通じて、少しずつ全体を見る力が育っていきます。
そのために必要なのが、部署を越えて話す場です。
全社員が顔を合わせる場も大切です。
会社の方向性を共有し、社長の考えを伝え、
お互いの存在を知ることは、会社としての一体感につながります。
一方で、管理職やリーダー層だけで顔を合わせる場も必要になります。
自分の部署だけでなく、他部署では何が起きているのか。
会社全体として、どこに課題があるのか。
社長は何を見ているのか。
自分たちは、どのような役割を担っているのか。
そうしたことを、管理職同士で聞き合い、考える場です。
「管理職として、その場に参加している」という感覚そのものが、役割意識を育てることもあります。
実際に、50人ほどの会社で、
管理職以上が集まる半期ごとの経営計画進捗会議に参加していました。
その場は、単に数字を報告するだけではなく、
今、何が課題なのか。
その課題にどう取り組んできたのか。
次に何を変えていくのか。
社長は、どのような情報を知りたいのか。
そうしたことが、会議の中で少しずつ明確になっていきました。
場があることで、目の前の仕事だけではなく、
会社全体の目標や課題を考える機会が生まれます。
これも、50人前後の会社における人材育成の一つの形なのだと思います。
場があるだけでは、人は育ちにくい
ただし、会議や面談があればよいということではありません。
会議はある。面談もしている。朝礼も行っている。
それでも、社長や一部の幹部だけが話している場を見かけることがあります。
社員や管理職が発言しても、一方的に否定されてしまう。
意見を出しても、すぐに結論を返されてしまう。
毎回、社長の話を聞くだけで終わってしまう。
そうなると、次から発言しにくくなります。
社長が話したくなる気持ちはよくわかります。
会社のことを一番考えているからこそ、
伝えたいことも多いのだと思います。
けれども、部署を越えて話す場を人が育つ場にしていくためには、
社長や幹部が「話す」だけでなく、「聞く」意識を持つことも大切です。
場が機能するためには、発言したことに対して反応があることが必要です。
話しても流される。
意見を出しても否定される。
何を言っても変わらない。
そう感じると、人は話さなくなります。
反対に、自分の考えを話し、それに対して質問やフィードバックが返ってくると、
社員や管理職は少しずつ考えて話すようになります。
人が育つ場には、「話してよかった」と感じられる経験が必要なのだと思います。
会社の目標と部署の動きをつなげる
部署を越えて話す場では、単に近況を共有するだけでなく、
会社の目標と部署の動きをつなげて考えることが大切です。
会社として何を目指しているのか。
そのために、各部署は何に取り組むのか。
今の進捗はどうか。
課題はどこにあるのか。
他部署と協力できることはないか。
こうしたことを確認する場があると、
リーダーや管理職は、自分の部署の仕事を会社全体の中で捉えやすくなります。
私自身が関わってきた中でも、経営計画の策定支援とあわせて、
個人の目標設定、月次の進捗確認、年に数回の面談、定期的な会議体づくりを行ってきました。
そこで大切だと感じているのは、目標を立てることだけではありません。
自分が取り組んでいることに対して、周囲から反応があること。
達成度を確認すること。
うまくいったこと、うまくいかなかったことについて、自分の考えを述べること。
それに対して、フィードバックを受けること。
この繰り返しが、仕事の見方を広げていきます。
目標と振り返りは、個人を管理するためだけのものではありません。
会社の目標、部署の役割、個人の取り組みをつなげて考えるためのものでもあります。
50人前後の会社では、このつながりを確認する場が、人を育てる大切な土台になります。
人を大切にする経営は、人が育つ場をつくること
50人前後の会社では、人材育成を社長一人で担うことは難しく、
また、特定のリーダーだけに任せきることも、負担が大きくなります。
だからこそ、部署を越えて考え、話し、振り返る場をつくることが大切になります。
人を大切にする経営とは、
社員一人ひとりを直接見守ることだけではありません。
社員が考えを話せる場をつくること。
部署を越えて互いを理解する場をつくること。
会社の目標と自分の仕事をつなげる場をつくること。
任された人が一人で抱え込まない場をつくること。
それもまた、人を大切にする経営の一つだと思います。
部署を越えて話す場が人を育てる。
ただし、それは会議を増やすという意味ではありません。
そこに、他部署の声を聞く時間があるか。
自分の考えを話す機会があるか。
会社全体を考える問いがあるか。
次の行動につながる振り返りがあるか。
その積み重ねが、50人前後の会社における人が育つ土台になります。
シリーズを終えるにあたって
「小さな会社の、人が育つ習慣」では、
5人、10人、20人、30人、50人前後の会社について考えてきました。
5人の会社では、社長の言葉が仕事の基準になります。
10人前後では、小さなリーダーの芽を育てることが大切になります。
20人前後では、教え方や仕事の基準を見える化する必要が出てきます。
30人前後では、任せる経験と判断の範囲が、人を育てます。
そして50人前後では、部署を越えて話す場が、人を育てる土台になります。
会社の人数が変われば、人材育成の課題も変わります。
けれども、どの段階にも共通しているのは、
人が育つことを本人任せにしないことです。
大きな制度がなくても、日々の小さな習慣から、人が育つ会社づくりは始められます。
社長の言葉、先輩の関わり、仕事の基準、任される経験、考えを話せる場。
そうした一つひとつの積み重ねが、小さな会社の人が育つ習慣になっていくのだと思います。
────────────────
執筆者
アイパス経営コンサルティング株式会社
代表取締役・中小企業診断士
有村 知里
────────────────
▼ ご相談について
「うちの場合はどう考えればよいのだろう」
そんなときは、状況を整理するところからご一緒しています。
経営計画、チームづくり、社員との対話、経営判断の整理など、
一人で抱え込まずに考えたいときにご相談ください。


