社長だけで作った経営計画が動かない理由―社員を巻き込む前に整理したいこと

2026.07.19

[経営計画] 

アイパス経営シリーズ経営計画編第2回「作って終わりにしない経営計画~社長だけで作った経営計画が動かない理由」のアイキャッチ画像

経営計画を社長一人で作っている中小企業は、珍しくありません。

 

小さな会社では、会社全体の数字や今後の方向性を最もよく把握しているのは社長です。

融資申し込みや補助金申請をきっかけに、社長が中心となって経営計画を作ることも多いのです。

 

最初に経営計画を社長だけで作ること自体が、問題なのではありません。

 

問題なのは、作った計画が社員に知らされないまま、社長の手元だけにあることです。

 

計画書を作ったことを社員が知らない。

売上や利益の目標だけが示され、その背景が伝わっていない。

会社がどのような課題を抱え、これからどこへ向かおうとしているのかも共有されていない。

 

その状態では、社員が経営計画を自分の仕事と結びつけて考えることは難しくなります。

 

 

社長だけで経営計画を作ること自体は問題ではない

小規模な会社では、社長が経営計画の土台を作ることは自然です。

融資の申し込みなどをきっかけに経営計画を作ることも、

会社の現状や将来を考える機会になります。

 

ただし、提出することが目的になると、

計画書の作成が終わった時点で、その役割を終えてしまうことがあります。

 

計画を作ったときは、

何に取り組み、どの程度の売上や利益を目指すのかを考えていたはずです。

 

それにもかかわらず、実際の行動が具体化されず、

さらに振り返る仕組みもなければ、

計画は机やパソコンの中に残されたままになってしまいます。

 

そして、売上や利益が計画どおりに進まなかった結果、

「経営計画を作っても意味がない」と判断してしまうことがあります。

 

しかし、経営計画そのものに意味がなかったのでしょうか。 

せっかく作った計画を、日々の経営に生かすところまで進められなかったことが

計画を無駄にしてしまったのではないかと考えるのです。

 

 

社員を巻き込む前に、会社の現状と重点課題を整理する

経営計画を作る出発点は

新しい事業への挑戦、お客様への提供価値の向上、社員の成長など、

会社の将来に対するさまざまな思いからです。

 

ただし、将来への思いだけでは、

社員が具体的に行動できる計画にはなりません。

 

社員と経営計画を共有する前に、

少なくとも次のことを整理しておく必要があります。

 

・現在、会社はどのような状態にあるのか
・今、優先して取り組むべき課題は何か
・会社を今後どのような方向へ進めたいのか
・その方向は、会社の理念とどうつながっているのか
・目指す姿に近づくために、何に取り組むのか

 

将来こうしたいという思いと、現在の会社の状態との間には距離があります。

 

その距離を明らかにし、

優先して取り組む課題を定め、

具体的な行動へつなげていくものが経営計画です。

 

現状や課題の整理が不十分なまま、社員に来期の目標を考えるよう求めても、

何を基準に考えればよいのか分かりません。

 

まず社長が、会社の現状と進みたい方向を、

社員に説明できるところまで整理することが必要です。

 

 

最初に共有したいのは、数字より「今の課題」と「今後の方向性」

また、経営計画を社員と共有するとき、

売上や利益などの数字から説明することがあります。

 

数字は、会社の状態や目標を把握するために欠かせません。

しかし、数字だけを示されても、

社員には、「なぜその数字が必要なのか」が分からないことがあります。

 

売上、利益、件数などの目標だけが先に示されると、

社員はそれをノルマとして受け止めやすくなります。

 

まず共有したいのは、

「会社が現在どのような課題を抱えているのか」

そして、「これからどのような会社になりたいのか」ということです。

 

たとえば、目指す状態には次のようなものがあります。

・お客様から選ばれ続けるために、提案の質が高まっている
・社員同士が助け合い、安心して仕事を任せ合えている
・現在のお客様との関係を大切にしながら、新しい市場にも挑戦している

 

できれば、この方向性を会社の理念ともつなげます。

 

・なぜ、この事業に取り組むのか。

・誰に、どのような価値を届けたいのか。

・そのために、なぜこの売上や利益が必要なのか。

 

この流れが伝わると、数字は社員を追い立てるものではなく、

会社の目指す姿に近づいているかを確かめる目印になります。

 

 

社員が判断するためには、情報と対話が必要

社員を経営計画に巻き込むというと、

社員から意見を集めたり、目標を考えてもらったりすることを思い浮かべるかもしれません。

 

しかし、必要な情報が共有されていなければ、

社員は意見を求められても十分に判断できません。

 

会社の現状や経営課題を知らないまま、

売上を伸ばす方法や来期の目標を求められても、

自分の担当業務や身近な経験の範囲で考えることになります。

 

経営計画に社員を巻き込むには、

まず判断材料となる情報を伝える必要があります。

 

もちろん、すべての経営情報を一度に開示するということではありません。

 

会社が現在置かれている状況、今後力を入れたい分野、現場に期待している役割などを、

社員が理解できる言葉で少しずつ伝えていきます。

 

そのうえで、次のようなことを社員と話し合います。

 

・現場で感じている課題
・目指す状態に近づくためにできること
・お客様への対応で見直したいこと
・日々の仕事の中で変えられること

 

社員の意見を聞くことで、

社長だけでは見えていなかった現場の課題や具体的な工夫が出てくることがあります。

 

ただし、意見を聞くだけで終わらせないことも大切です。

 

どの意見を計画に反映したのか、

反映しなかった場合にはどのような理由があるのかを伝えることで、対話への信頼が生まれます。

 

こうした積み重ねが、社員にとって経営計画を自分ごとにしていく第一歩になります。

 

 

経営計画を「社長の計画」から「会社の計画」へ

社員を巻き込むことは、経営計画の作成を社員に任せることではありません。

 

社長が担うべき役割と、社員と一緒に考える部分があります。

 

社長は、会社の理念や進む方向、重点的に取り組む課題を示します。

社員は、現場の状況やお客様の声を踏まえて、具体的な行動や工夫を考えます。

 

また、目標を設定するときは、売上や件数などの定量目標だけでなく、定性目標も考えます。

 

定性目標とは、どのような状態になっていたいかを具体的にしたものです。

たとえば、次のような状態が考えられます。

・お客様から相談される機会が増えている
・部門間で必要な情報が共有されている
・社員が自分の考えを会議で発言できている
・提案内容やサービスの質が高まっている

 

数字と目指す状態の両方を考えることで、

目標がノルマだけになることを防ぎやすくなります。

 

目標に届かなかった場合も、社員を責めるのではなく、

届かなかった理由や行動と数字のつながりを振り返り、

次に変えることや試す行動を一緒に考えます。

最初から全社員で経営計画を作る必要はありません。

 

まずは社長自身が考えを整理する。

次に、幹部やリーダーと共有する。

その後、会議で一つの課題について社員の意見を聞いてみる。

 

このような小さな取り組みから始めることができます。

 

経営計画を最初に社長だけで作ることがあっても構いません。

ただし、社員に情報を出さないままでは、

社員は判断することも、自分の仕事と計画を結びつけることもできません。

 

社長が会社の現状、重点課題、今後の方向性を整理する。

その背景と意味を社員に伝え、具体的な行動を一緒に考える。

 

その積み重ねによって、経営計画は「社長の計画」から「会社の計画」へと変わっていきます。

 

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執筆者

アイパス経営コンサルティング株式会社
代表取締役・中小企業診断士
有村 知里
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