「年輪経営」は小さな活動の集積から

2016.12.17

[本だな、読んだな] 

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 長野県伊那市に本社・工場がある伊那食品工業株式会社の企業見学に、異業種交流会シフト21のメンバーとともに訪問したのは、2008年5月になります。
 「かんてんぱぱ」ブランドで知られる同社は、代表取締役会長の塚越寛氏が提唱する「年輪経営」で有名な企業です。
 塚越氏は零細企業だった寒天製造業を良い職場、働きやすい環境にしようと力を入れ、製造環境の改善や市場拡大に取り組んできました。
製造環境の改善では、冷たい水にさらされて、年中長靴履きの社員を楽にしたいと、製法を改善して作業靴でも可能な工場にしています。
 また、零細企業からの脱皮を図るためには季節的な製造によらず、1年中安定した製造ができることが必要になります。このため世界中から、原材料の天草や海藻を輸入して、工場の稼働を安定させました。
 
 一方、新たな販路として食品はもとより、化粧品市場や医薬品市場など寒天を原材料として利用できる分野へ用途を拡大しています。
 現在、伊那食品工業の国内市場のシェアは約80%、世界では15%を占めるまでに成長しています。
 しかし「年輪経営」という言葉に表れるように、当社は「急激な市場拡大や売上増は会社を弱らせかねない、少しずつ大きくなっていくと良い」という考えを持っています。このため、数年前に世間に寒天ブームが起こり、寒天が飛ぶように売れるようになった時に、自重しようとしたそうですし、大手量販店からの取引も断ったといいます。また営業にもノルマはないそうです。

 

 また「いい会社をつくりましょう」という経営理念を社員が共有し、行動している印象が強く残っています。
 「いい会社」とはお客様、社員、地域、取引先と多方面の視点から考えなければなりませんが、それが、企業活動の一つひとつに具現化されています。
 例えば地域という点からは、工場と地域との一体化を図るために工場に門扉がありませんし、工場敷地の清掃を社員全員が毎日行っていて、常にきれいに保っています。工場前の片側一車線の道路通行をスムーズにするために、社員の自動車は右折入場禁止とまでされています。

 

 これらは一見すると些細なことに思えますが、これらの一つ一つの活動、行動、動き方が集まって、「いい会社」になり、少しずつ成長していく「年輪経営」へとつながっているのですね。

 「年輪」の重みと感動を感じながら、異業種交流会シフト21のメンバーと帰路についたことを、今も鮮明に覚えています。  
 
 参考著書 リストラなしの 「 年輪経営 」(2009年2月発行/塚越寛著/光文社発行 )

      日本でいちばん大切にしたい会社(2008年3月発行/坂本光司著/あさ出版)